印刷 | 通常画面に戻る |

クヌート/カヌート

1016年、イングランドを征服したデーン人の王。イングランド、デンマーク、ノルウェーに及ぶ北海帝国を支配した。

 クヌート Cnut は、カヌート、またはクヌーズとも表記。11世紀にイングランドを支配したデーン人の王。デンマークを拠点としたスカンジナヴィア人とされている。8世紀末に始まったデーン人(ヴァイキング)のイングランド王国侵攻は、アルフレッド大王によって一時抑えられたが、11世紀にふたたび活発になった。イングランド王国の王はデーン人の侵攻に対して、ノルマンディー公と結んで対抗しようとしたが、悪政もあったため国内の貴族層の支持を失い、代わってデーン人の王クヌートが1016年にイングランド王として推戴された。

デーン朝と北海帝国

 クヌートは、イングランド王国のデーン朝を成立させたが、同時にデンマーク王を兼ね、さらにノルウェーとスウェーデンの一部を支配していたので、その支配を”北海帝国”ともいう。
 デーン朝の時代は短く、クヌートの死後、まもなく王位継承問題から分解し、イングランドにも間もなくアングロ=サクソン人の王が復活するが、この間、三圃制農業を背景とした封建領主の荘園経営の進展、キリスト教教会建設の増加など、封建社会の基本的なしくみが形成されていった。

クヌート王の即位事情

 教科書の概説的説明では、なぜデンマークの王がイギリス(イングランド)の王になれたのか、次のノルマンディ公ウィリアムと同じような征服活動であったのだろうか、などの事情がよくわからない。どうやら、クヌートを単なる征服者とみるのは正しくなさそうだ。その事情をやや詳しく見てみよう。
  • イングランド王国の混乱 イングランド王国では973年にエドガー王(アルフレッド大王の曾孫)が初めて戴冠式を行い、王権を確立したかに見えたが、975年、その死後にたちまち内紛が起こった。王位を継いだ長男エドワードが暗殺され、二男エセルレッド(エゼルレッド)が10歳で即位した。
  • エセルレッド王の悪政 しかしエセルレッドは王としての資質に欠け、「無思慮王(アンレディ)」と渾名される始末。そのころ再び北海からデーン人の侵攻が活発になると、彼はノルマンディ公リシャールの妹エマと結婚し、デーン人の攻撃に共同してあたろうとした。イングランドとノルマンディの結びつきはここから始まった。
  • エセルレッド王のデーン人虐殺 1002年、エセルレッド王はイングランド中のデーン人を皆殺しにする命令を出した。オックスフォードでは聖堂に逃げ込んだデーン人を町民が焼き殺すという惨事も起こった。激怒したデンマーク王スヴェンは、翌年大軍を率いてイングランドに上陸、復讐のためオックスフォードを焼き討ちにした。エセルレッドが巨額の銀貨をヴァイキングに支払う約束で休戦したため、その銀貨は全国から平和金と称して徴収した。
  • スヴェン王の即位 無能さをさらけ出したエセルレッド王が妻の実家ノルマンディに亡命すると、1013年、イングランドの有力貴族たちはデンマーク王スヴェンを王として迎えた。翌年スヴェンが急死したため、デンマークでは長男ハーラルが、イングランドでは次男カヌートが国王となった。その混乱に乗じてエセルレッドがイングランドに帰還して王位を奪還する。
  • クヌートの征服 クヌートは翌15年、デンマークから大軍を率いて上陸し、一路ロンドンを目指した。その間、エセルレッド王は死に、長男エドモンド2世が後を継いだが、貴族の大半はクヌートを支持した。アシンドンの戦いで大敗したエドモンド2世がその直後に急死すると、1016年、イングランドの賢人会議(有力貴族の合議制)はクヌートを「全イングランドの王」として認めた。
(引用)カヌート(在位1016~35)は、「征服者」としてではなく、正統なイングランド王として有力者たちに迎え入れられたし、自らそれを望んでいた。そのためウェセックスの正統な継承者であることを示すために、彼は即位とともに「エドガー王の法」を継承することを宣言した。またエセルレッド王の未亡人エマと結婚し(ここにはイングランドと同じくデーン人との敵対が続くノルマンディ公国との関係改善の狙いも込められていた)、「征服者」として強圧策を採るのではなく、在地の有力貴族との協調路線を選択した。<君塚直隆『物語イギリス史上』2015 中公新書 p.25-26>
 以上のように、クヌート(カヌート)王は戦闘による征服であると同時に、王権をめぐる内紛によって紛糾したイングランド王国の貴族たちの要請を受けて国王となった事情もあり、後の名誉革命のウィリアム3世に似ていると言える。
 しかし、1035年、クヌートが死ぬとデーン朝は内紛のため瓦解し、イングランドでは1042年にサクソン人のエドワード証聖王(懺悔王)が王となってアングロ=サクソン人の王朝が復活する。 → イギリス(2)
印 刷
印刷画面へ
書籍案内

君塚直隆
『物語イギリス史 上』
2015 中公新書