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ヒトラー暗殺計画

1944年7月20日、軍人グループによるヒトラー暗殺計画が実行されたが失敗し、首謀者らは処刑された。

 第二次世界大戦の末期、連合軍のノルマンディー上陸作戦が行われて成功し、さらに独ソ戦ではスターリングラードの戦いでの敗北以来、ソ連軍に押されてドイツ軍の後退が続いていた。そのようななか、ドイツ国防軍のなかに、ヒトラーの独裁的な軍事指導が同一の崩壊を招くのではないか、という恐れを強く抱いたグループが、ヒトラーの排除を狙って暗殺する計画を立てた。1944年7月20日に実行されたが、ヒトラーは奇跡的に生き延び、計画は失敗した。首謀者の高級軍人の多数が逮捕、処刑され、またゲシュタポによる芋ずる式の逮捕によって反ナチ抵抗運動は大きな打撃を受け、ドイツ内部からヒトラーを倒す動きは封じられた。

7月20日事件

 1944年7月20日、東プロイセン(現ポーランド)の総統大本営通称ヴォルフシャンツェ(オオカミの堡塁)の地下室で対ソ戦の作戦会議を開催していたヒトラーたちの机の下で爆弾が爆発、同席していた軍人数名が死傷した。ヒトラーは奇跡的に軽傷で済み、死ななかった。ただちに犯人探索が始まり、爆発物を持ち込んだのはベルリンから会議に参加した国内軍参謀長クラウス=フォン=シュタウフェンベルク陸軍大佐だと判明した。大佐は直前に部屋を出て、爆発後に検問をすり抜け、ベルリンの司令部に戻っていた。

軍人によるヒトラー暗殺計画

 暗殺計画は国防軍の数名の高官を含めて計画されていたが、実行方法と実行者をだれにするかで決まらず、延び延びになっていたが、連合軍がノルマンディーに上陸し、また独ソ戦でもソ連の反撃が始まっており、このままでは東西から挟撃されてドイツは壊滅する恐れが大きくなっていた。ヒトラーが一切の和平交渉を拒否して戦争継続を厳命したことに国防軍の上層も含めて危機感を持つ将官があらわれた。しかし停戦をにおわす発言をしただけで左遷されてしまった。シュタウフェンベルクは、反ナチ思想に共感したのではなかったが、ドイツの将来にとってヒトラーの狂気は有害だと考えるようになった。しかし、あくまで少数派であった反ヒトラー派にはヒトラーに近づく機会もなく、また政治家や官僚のクライザウ・グループなど反ヒトラー派も次々と逮捕、死刑になって行き、行き詰まっていた。そのようなときシュタウフェンベルクは北アフリカ戦線で片腕と片目を失い、英雄としてベルリンの国内軍参謀長に転勤した。ヴィルフシャンツェの作戦会議に参加することになったとき、これが唯一のチャンスと考え、鞄に時限装置をつけた爆薬を忍ばせ、会議室に入ってヒトラーの立つ位置の机の下にそっと置き、急用だと偽ってその場を立ち去ったのだった。建物を出るとき出てきた部屋で大爆発が起き、成功を確信した彼は一路ベルリンに向かい、かねて準備していたとおり、各部隊に「ヒトラー総統は死んだ」と打電した。

ヒトラーの強運

 ところが総統は生きていた。シュタウフェンベルクが置いた鞄はヒトラーの足下から、誰かが邪魔だと思い足でテーブルの脚の陰に移していたのだった。幕僚の数名を失って衝撃を受けたが、まもなく立ち直り、謀反人を「根こそぎにしてやる」とつぶやいて徹底捜索を命じ、ちょうどその日、総統大本営を訪問に来たムッソリーニを出迎え、爆発のあった部屋に案内して自分がいかに強運をもっているかを自慢した。

反ナチス抵抗運動への弾圧

 シュタウフェンベルクから発せられた「ヒトラーは死んだ」という電報に続いて、大本営からゲーリングが「ヒトラーは生きている」という電報が届き、フランス占領軍など在外部隊も含めて全ドイツ軍は大混乱に陥った。シュタウフェンベルクはベルリンの国内軍司令部に反ヒトラー・グループを集め対策を練ったが、すでにヒトラー生存を知った何人かは動揺し、ヒトラー支持に寝返っていた。シュタウフェンベルクたちは抵抗するまもなく逮捕され、即決裁判で有罪とされ、処刑された。シュタウフェンベルクは銃殺される前に「神聖なドイツ万歳!」と叫んで死んだという。蜂起は失敗した。ゲシュタポはさらにそれまで反ナチの言動のあった軍人や政治家、役人、文化人の一斉検挙に乗り出し、ハルダー大将、シャハト元国立銀行総裁、ヴィッツベーレン元帥なども軒並み逮捕された。逮捕者は約600人におよび、ナチスの民族裁判によってほとんどが死刑となった。こうして、ドイツ国内のナチスに対する抵抗運動は根絶やしにされ、押さえつけられ、ヒトラーはドイツ第三帝国を滅亡まで導いていくこととなった。<小林正文『ヒトラー暗殺計画』1984 中公新書/山下文子『ヒトラー暗殺計画と抵抗運動』1997 講談社選書メチエ>
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小林正文
『ヒトラー暗殺計画』
1984 中公新書

山下公子
『ヒトラー暗殺計画と抵抗運動』
1997 講談社選書メチエ