印刷 | 通常画面に戻る |

化学兵器禁止条約(CWC)/化学兵器禁止機関(OPCW)

1993年に締結された、化学兵器を禁止する国際条約(CWC)。その使用だけではなく開発、生産、貯蔵についても禁止し、既存の物は廃棄することも決められた。そのための国際機関として化学兵器禁止機関(OPCW)も作られた。

 正式には「化学兵器の開発、生産、貯蔵及び使用の禁止並びに廃棄に関する条約」略称 CWC Chemical Weapons Convention)。1993年1月13日に署名され、1997年に発効した。現在193ヵ国が締約国となっている。日本は1995年に批准している。
 ここでいう化学兵器とは、「毒性化学物質を弾薬または装置に詰めて放出、死その他の害を引き起こす兵器」であり、皮膚、粘膜、血液、神経に作用し、被災者に多大な苦痛と、多くは死をもたらす、とされている。種類には①びらん性ガス(マスタード、ルイサイトなど)、②神経剤(タブン、サリンなど)、③血液剤(青酸、塩化シアンなど)、④窒息剤(ホスゲン、ジホスゲンなど)の四種があり、他に催涙剤、枯葉剤、幻覚剤なども広い意味では化学兵器に含まれる。<前田哲男編『現代の戦争』2002 岩波小辞典 p.228>
 非人道的な兵器(人道的な兵器があるとは言えないが)の禁止条約としては、1975年に発効した生物兵器禁止条約に次ぐものである。また1997年には対人地雷全面禁止条約も締結(1999年発効)されている。より根元的な大量破壊兵器には核兵器があるが、それは2021年に発効した核兵器禁止条約がある。

化学兵器禁止の歩み

 19世紀末に毒ガスの開発が始まり、すでに1899年のハーグ万国平和会議において「毒ガスの禁止に関するハーグ宣言」がだされていたが、帝国主義列強によって遵守されることはなく、その先頭を切って開発を進めたドイツは、第一次世界大戦で本格的に使用、連合国側も同様に毒ガスを戦場で用いたので、死者100万人と言われる毒ガス戦被害者を出した。
 毒ガスなどの化学兵器の非人道性に対する非難が強まり、1925年ジュネーヴ議定書で毒ガスと化学兵器の使用は禁止された。このとき、生物毒素を利用した兵器も同時に禁止された。この段階では、使用禁止にとどまり、開発・製造までは禁止されていなかったため、各国とも化学者を動員した化学兵器の研究開発は続けていたのだった。第二次世界大戦では、ヨーロッパ戦線での使用は避けられたが、ヨーロッパ以外でのイタリア軍によるエチオピア侵攻、日本軍による日中戦争において、大規模に使用された。
 第二次世界大戦後の冷戦時代、米ソは競って化学兵器の研究開発を進め、アメリカ軍によるベトナム戦争、ソ連軍によるアフガニスタン侵攻では枯葉剤と神経ガスが組織的に使用された。特にイラン=イラク戦争で、イラクのサダム=フセイン政権はが1988年3月にクルド人の街ハラブジャで毒ガスを使用、約5000人の犠牲を出したことは世界的な非難が巻き起こった。

化学兵器禁止条約の締結

 1989年に東西冷戦が終わったことによって、化学兵器の全面的な禁止が具体化されることになった。1997年の化学兵器禁止条約の発効は、1899年、1925年に続く三回目の試みであるが、今度は化学兵器の使用だけでなく、開発・生産・貯蔵も禁止され、さらに廃棄についても締約国の義務とされたことが重要である。多くの日本人は日中戦争で自ら化学兵器・細菌兵器を使用したことを忘れてしまっていたが、1995年にオウム真理教団が松本や地下鉄霞ヶ関駅でサリンを散布して多くの犠牲が出たことで覚醒し、化学兵器禁止条約をいち早く批准した。同時にその条約で外国に遺棄した化学兵器の処分の義務も定められたため、中国各地に残る毒ガス弾などの撤去を行わなければならないこととなった。

化学兵器禁止機関(OPCW)

 1997年の化学兵器禁止条約の発効に伴い、化学兵器の禁止と廃棄を進めるための国際機関として化学兵器禁止機関(OPCW Organisation for the Prohibition of Chemical Weapons)が設立された。国際連合を親組織とする国際機関であり、本部はオランダのハーグに置かれている。
 OPCWは、任務の一環として、軍関係施設や化学工場での生産過程で化学兵器の製造に転用されることを防止するための査察を実施することが認められている。日本には防衛省管轄下の陸上自衛隊化学学校や多数の化学産業の研究所や工場があるが、いずれも査察の対象であり、各機関は報告書の申告義務し査察も受け入れている。
 2013年には、化学兵器の排除のための多大な努力を評価され、ノーベル平和賞を受賞した。

NewS ロシアとOPCWの対立

 2018年10月、オランダ当局が、化学兵器禁止機関(OPCW)をハッキングする目的でオランダ国内でスパイ行為を行ったとしてロシア人4人を国外退去とするという事件がおこった。この男性4人はロシア軍参謀本部情報総局(GRU)の工作員とみられており、4月にOPCWにサイバー攻撃を仕掛けて失敗し、逮捕されたという。OPCWは、2017年のシリア内戦で、アサド政権がサリンと塩素ガスの化学兵器を使用したと現地調査の上で断定し、機関発足後初めて国際連合に報告した。
 それに対してアサド政権を支援しているロシアのプーチン政権は反発し、OPCW脱退を匂わせている。また、ロシアの反政府活動家ナワリヌイ氏が2020年8月20日に旅客機内で突然倒れたのは、神経剤による毒殺を狙ったロシア当局による暗殺未遂事件ではないか、という疑惑が持ち上がり、OPCWもその見解を公表した。OPCWはロシアがウクライナでも化学兵器を使用するのではないかと警戒し、ロシアはOPCWの過剰反応として反発している。
 → AFPbbニュース 2020/10/7  ノビチョク系神経剤、ナワリヌイ氏検体に確認 OPCWノビチョク系神経剤、ナワリヌイ氏検体に確認 OPCW
印 刷
印刷画面へ