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香港民主化闘争

1997年にイギリスから中国に主権が返還され、50年間は一国二制度がとられることとなった。21世紀に入り、中国本国の締め付けが厳しくなり、それに対する若者世代を中心とした民主化要求が強まった。中国は分離独立の動きを警戒し、香港内部にも独立を指向する勢力と中国への帰属を維持する派の対立が深刻になっている。

香港民主化闘争

雨傘運動 2014年9月28月香港で特別行政区長官の選挙が行われることになったが、中国政府に批判的な人物は立候補できず、選挙とは言っても香港人の意思を示すことができないという、香港返還の際に定められた一国二制度の問題点が明らかになった。完全な民主的選挙制度の実現を要求して大学生がストライキに突入、市民も参加して運動が広がり、香港の都市中心部を占拠した。香港当局は学生の対話要求を拒否し、警察を動員して放水、デモ隊を解散させようとしたが、学生たちは傘を広げて抵抗し、市街占拠を続けた。この「雨傘革命」は、香港の最も根源的な変革を求めるものであったので、中国本土の共産党政権は厳しく弾圧した。この年の3月には台湾で学生たちが立法院の議場を占拠するというひまわり学生運動が起こっており、学生の中に共鳴するものも多かった。
 雨傘運動が警察当局の催涙スプレーなどで暴力的に弾圧された後、香港市民は、政治的民主化推進を重視する民主派と、香港を本土とし主体性と文化を重視する本土派に分裂、さらに中国共産党との協調をはかる保守派も一定の基盤を持ち、混迷が続いた。
 2017年には香港返還20周年となり、その式典で、中国共産党首席習近平は、「一国二制度」を堅持すると述べたものの「一国」であることを重視すると強調、香港の分離独立の傾向を牽制した。香港の動きは台湾にも影響を与えるので、中国の覇権国家路線をすすめる習近平政権にとっては最も神経を尖らせる部分であった。
逃亡犯条令改定案反対運動 2019年4月、香港立法府で「逃亡犯条令改定案」の審議が始まると、にわかに反対運動が盛り上がった。これは香港で刑事事件をおこし身柄を拘束された容疑者を中国本土に移送を可能にする法案で、それに対して一国二制度の中で香港に認められていた法的な独立性が損なわれることになるとする反対運動が、民主派だけで無く本土派の中からも起こった。急速に反対運動が盛り上がり、6月には100万を超える参加者で反対デモが行われた。香港行政特別区行政長官(事実上の香港首相)林鄭月娥(キャリー=ラム)は、一端審議の延期を表明したが、結局9月に入り法案を撤回した。

NewS 香港国家安全維持法施行される

 2020年6月30日、中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会は、全会一致で香港国家安全維持法を可決成立させ、香港政府は同日、同法を施行した。7月1日は返還記念日で、その前日のことだった。2014年の雨傘運動、2019年の逃亡犯条令改定案反対運動などの香港の民主化運動の高まりに対して警戒を強めていた中国の習近平国家主席の下で、今後の香港での中国からの分離独立につながりかねない動きを厳しく取り締まる意図を示したものといえる。
 実際、民主化活動家は、中国共産党を批判しただけで身柄を拘束されたり、民主派として香港議会に立候補できなくなる恐れが出ており、「一国二制度」の原則だけでなく、政治活動や言論の自由さえ奪われる人権の危機であると捉えられている。中国の香港での同法施行に対しては、高速通信規格(5G)での対立に加えて、2020年春からの中国武漢での新型コロナウィルスの発生を中国当局が意図的に隠蔽したとして対中国強硬姿勢をとっているアメリカのトランプ大統領が強く反発し、ヒューストンの中国総領事館を閉鎖するなどの措置を取った。それに対して中国も四川省成都のアメリカ総領事館を閉鎖するなどの対抗措置を取っており、中国とアメリカの「新冷戦」とまで指摘する声も上がっている。
 → 香港国家安全維持法施行の解説ページ BBC News Japan 2020/7/1

NewS 中国・イギリス関係も悪化

 香港が中国に返還されるの先立ち、1986年に、イギリスは返還予定の前日97年6月30日(つまりイギリス領であった日)までに生まれた香港市民に対して、イギリス居住権はないが、海外でイギリスの領事保護が受けられる身分とすると設定した。これをBNO、British National (Overseas) イギリス国民(海外)という。現在、イギリス政府が発行するBNO旅券保持者は約35万人おり、他に取得条件を満たしている人は約250万人にのぼるという。
 香港の旧宗主国であるイギリスは、中国が香港国家安全維持法を施行したことを受け、この香港返還前に香港で生まれたBNOに対して海外(イギリス)への移住を大幅に認め、定住やイギリス市民権の申請も出来るように改定すると発表した。これによって香港住民のなかでイギリス移住の道を選ぶ人が増えるとみられている。これに対して中国は、香港の主権は中国にあり、イギリスの内政干渉だと強く反発し、中英関係は一転、冬の時代に入った。中国はイギリスがEUを離脱したことで、経済的にアメリカ依存を強めているとみている。<朝日新聞 2020/7/26 記事による>
 イギリスはキャメロン政権の時期には中国との関係は良好であったが、保守党ジョンソン政権になって冷え切っている。アメリカの対中国強硬路線に追随している形だが、旧宗主国としては慎重な姿勢が望まれる。
 中国と香港が現在、緊迫した関係にあり、世界の耳目を集めている。一国二制度が、主権を持つ中国の共産党一党独裁と人権抑圧体質のもとでは無理があることはあきらかであろう。しかし、世界史を学習することで、現在の矛盾の出発点に、アヘン戦争―南京条約―イギリスへの香港割譲があることをしっかり理解しておこう。
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書籍案内

倉田徹・張彧暋
『香港―中国と向き合う自由都市 』
2015 岩波新書

益満雄一郎
『香港危機の700日全記録 』
2021 ちくま新書