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抗生物質

カビなどの微生物がつくりだす、他の微生物や細菌の働きを阻害する物質。1929年のペニシリンの発見に始まる。

 19世紀に始まった細菌学における「細菌の狩人」による探求は、20世紀に入ると重点が微生物と生体との交渉に置かれるようになり、さらにそれは微生物に対抗する薬を発見すること(化学療法)と、体がもともとそなえている微生物に対抗するメカニズムの探求(免疫)の二つに研究に集中するようになった。化学療法では、1910年にエールリッヒと秦佐八郎によって梅毒スピロヘータに対するサルヴァルサンのテストが成功したことから始まった。続いて1929年、イギリスの細菌学者フレミングが、青カビから抽出したペニシリンが、抗生物質の最初であった。
(引用)1929年に劇的な事件が起こった。イギリスの細菌学者フレミングが、青カビがブドウ球菌の発育を阻止する物質(ペニシリン)を産生することに気づいたのだ。これが実用になるには十年の歳月が必要だった。ペニシリンを純粋な形で分離しなければならなかったし、臨床的に有効であることが確認されなければならなかった。フローリーとチェーンがこういう問題を解決した。第二次世界大戦が始まり、大量の需要が見込まれる中、アメリカの協力で工業生産に成功した。<梶田昭『医学の歴史』2003 講談社学術文庫>
 1944年にはワックスマンたちが土壌内の放線菌の培養から、結核菌に有効なストレプトマイシンを発見した。こういう微生物由来の抗菌物質は、抗生物質 antibiotics と呼ばれた。(つまり、抗生-物質、ではなく、抗-生物質である。)
 ペニシリン、ストレプトマイシンに続いて、1950年代に新しい抗生物質の発見が相次ぎ、医療は飛躍的に進歩した。しかし、20世紀終盤になって、抗生物質が無効な感染症が増加するという新たな事態となっている。それは薬剤投与の過程で耐性がつくられたためであり、そのような耐性菌に感染すると化学療法では抑えられないという問題が起こってきた。大病院での院内感染などの深刻な事態が生じており、耐性菌の出現と抗生物質の開発の競争となっている。
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書籍案内

梶田昭
『医学の歴史』
2003 講談社学術文庫

佐藤健太郎
『世界史を変えた薬』
2015 講談社現代新書