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サヘラントロプス

約700万年前に出現した、猿人に属する現在最古の化石人類でされている。アフリカのチャドで2001年に発見された。

最古の化石人類か

 2001年、アフリカ中央部のチャド共和国で発見された頭蓋骨化石。人類学者により、約700万年前の、人類の一種、猿人に分類される化石人類であることが発表され、学名を発見地に因んで、サヘラントロプス=チャデンシスと名づけられた。サヘルとは北アフリカに広がる広大なサハラ砂漠の南側に、東西に広がる帯状の半乾燥地帯のことである。この発見によって、人類の出現年代は、従来のラミダス猿人の約450万年前説から一気に250万年遡り、約700万年と言うことが、ほぼ定説化した。

サヘラントロプスの発見

 サヘラントロプスは、2001年にフランスの研究チームが発掘し、700万~600万年前と報告され、サヘラントロプス=チャデンシスと命名された。サハラ砂漠の南端を意味する「サヘル」とヒトを意味する「アントロプス」を組合せて属名とし、発見地のチャドにちなんで種名チャデンシスをあわせた学名。研究者は自分が見つけた化石を我が子のような愛着を感じるらしく、よく名前を付けるが、この個体は、現地語で「生命の希望」を意味する「トゥーマイ」という愛称が付けられた。なお、サヘラントロプスに近い年代の化石も相次いで発見されており、600~580万年前のオロリン=ツゲネンシス、580~520万円前のアルディピテクス=カダバなどがある。

直立歩行していたか

 サヘラントロプスは頭蓋骨しか見つかっていないが、ほぼ完全な頭蓋骨で、脳の大きさは360~370ccでチンパンジーとあまり変わらず、現生人類の3分の1以下、推定身長は105~120cm。しかし犬歯の退化が見られる。大腿骨は見つかっていないので直立歩行していたかどうかの判定は困難だが、首の骨が頭蓋骨の後方にあれば類人猿、真ん中近くにあれば直立した人類と判定できる。サヘラントロプスはこの「大後頭孔」の位置が類人猿と現生人類の中間にあると報告された。すなわち、サヘラントロプスは「犬歯の縮小などから人類の一員と判断できる。直立二足歩行を示唆する特徴もあるが、歩き方を決定づけるまでには至っていない」という段階にある。そこでこれを人類と断定するのには慎重な意見もある。ただし、時期の近いオロリン=ツゲネンシスには大腿骨も発見され、直立歩行していた可能性が高いという。

Episode 砂漠で人類が生まれた?

 人びとを驚かせたのは、サヘラントロプスが従来の化石人類が多く発見されているエチオピアから中央アフリカにかけての大地溝帯ではなく、サハラ砂漠で発見されたからだった。しかし、化石が見つかった地層からは、森林のサルであるコロブスの他、魚やワニ、ゾウ、ウシ、カバなどの動物化石が見つかっており、森林や湿原が混在する環境だったことが分かった。地球環境が全く現在と異なっていたと考えられる。<三井誠『人類進化の700万年―書き換えられる「ヒトの起源」』2005 講談社現代新書 p.18-35 など>

参考 教科書・用語集での扱い

 高校教科書では、人類の起源は約700万年前、というの定着しているが、サヘラントロプスの名は教科書の山川詳説世界史では掲載がない。帝国書院版には見られるが、まだ少数のようで、山川の用語集では最新版に頻度②で取り上げられている。しかし、2020年の大学入試問題でついにデビュー(?)した。
出題 2020年 早稲田大学文化構想 第1問
 化石人骨の新発見により、人類の起源はかつて考えられていたよりも遡ることがわかってきた。現在、最古とされる化石人骨はアフリカのチャドで発見された(  A  )で、約700万年~600万年前のものである。
設問 空欄Aにあてはまる語句を書け。
答え
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書籍案内

三井誠
『人類進化の700万年』
2005 講談社現代新書

更科功
『絶滅の人類史―なぜ「私たち」は生き延びたか』
2018 NHK出版新書