印刷 | 通常画面に戻る |

化石人類

化石として知ることのできる人類。約700万年前、類人猿から分岐して直立歩行し始めてからを人類とする。その後、何種類もの人類が登場したが、いずれも絶滅し、約20万年前に出現したホモ=サピエンス(現生人類)のみが現在も生存している。

人類進化の見直し

 人類の進化の段階には、化石人類の研究によって、「猿人」「原人」「旧人」「新人」の4つがあるとされてきた。そして現在の我々人類(現生人類)は「新人」段階にあるといわれてきた。しかし、これは化石人類の「種」の違いを意味しているのであり、進化の段階を示しているのではないので注意しなければならない。
 かつてはこの4段階は順次進化してきた過程であると説明されていたが、現在の研究水準では、この進化は、4つの段階が継続的に続いたのではなく、途中に、「絶滅」や「置換」が起こったことが明らかになってきた。この4種類の化石人骨の関係は必ずしも明かではなく、またネアンデルタール人とホモ=サピエンスの出現順序も全く逆であったことが判明した。そのため現在では猿人、原人、旧人、新人という化石人類の4分類は人類学会では用いられなくなっている

化石人類の分類

 化石生物学による研究が進んだ現在では、広い意味での人類は次のように分類されているようだ。
  • 初期人類(700万年前~440万年前):サヘラントロプス=チャデンシス、オロリン=ツゲネンシス、アルディピテクス=カダッハ、アルディピテクス=ラミダスの4種。
  • アウストラロピテクス属(前420万年前~120万年前):アウストラロピテクス=アナメンシス、アウストラロピテクス=アファレンシス、アウストラロピテクス=アフリカヌスなど7種。
  • ホモ属(240万年前~3万年前):ホモ=ハビリス、ホモ=エレクトゥス、ホモ=ハイデルベルゲンシス、ホモ=ネアンデルターレンシス、ホモ=フロレシエンシス、ホモ=サピエンスの6種。
それぞれの化石が発掘される地層の年代は重なっている(つまり併存した)のであり、単線的に進化したのではない。また、これらの化石人類は、ホモ=サピエンス(現生人類)を除いて絶滅した。<最新の知見は、更科功『絶滅の人類史―なぜ「私たち」は生き延びたか』2018 NHK出版新書 p.14の表による。>

人類進化の年代

 最近の研究成果を紹介した諸書によって、人類進化史のあらすじを化石人類でまとめると次のようになる(年代や分類には異なった説があることを前提として)。 → 人類の出現年代
  • 700万年前……アフリカで類人猿の仲間から直立歩行したヒト類が誕生。現在、最古はチャドで発見されたサヘラントロプス=チャデンシスとされている。
  • 450万年前……アフリカの大地溝帯周辺でラミダス猿人(アルディピテクス=ラミダス)が活動。
  • 440万年前……このころまでに初期人類(サヘラントロプス属やアルディピテクス属)の活動終わる。
  • 420万年前……アフリカでアウストラロピテクス属の最初のアウストラロピテクス=アナメンシスが出現。
  • 380万年前……アフリカでアウストラロピテクスがオルドヴァイ文化を産みだす(アウストラロピテクス=アファレンシス)。
  • 280万年前……アウストラロピテクスが華奢型と頑丈型に分かれる。このうちの華奢型が、ホモ属に進化したのではないか、と言う説が有力になっている。
  • 250万年前……アフリカでホモ=ハビリス打製石器製造技術を発達させる。これがホモ属の最初。
  • 190万年前……アフリカでホモ属のホモ=エレクトゥス(かつては一般に原人といわれた)が出現、打製石器技術、火の使用などを身につけ、旧大陸に広がる。ジャワ原人北京原人などはその地域的変種。
  • 60万年前……アフリカでホモ=ハイデルベルゲンシスが出現。組合せ石器などの文化を持つ。
  • 20万年前……アフリカでホモ=サピエンス(現生人類=かつて新人といわれた)が生まれる(最近では30万年前説も出ている)。 → アフリカ単一起源説
  • 16万年前……ホモ=サピエンス、この頃から「出アフリカ」し、旧世界に広がる(人類の拡散)。
  • 15万年前……ヨーロッパから西アジアでホモ=ネアンデルターレンシス(ネアンデルタール人、かつては旧人といわれた)が活動。
  • 3万年前……インドネシアのフローレス島にホモ=フロレシエンシスが独自の進化。
  • 2万5千年前……地球上にはホモ=サピエンスのみが生き残り、文明を形成する。
※参考文献
・『「人類の起源」大論争』瀬戸口烈司 講談社選書メチエ(1995)
・『ネアンデルタール人の正体』赤澤威 朝日選書(2005年2月)
・『人類がたどってきた道』海部陽介 NHKブックス(2005年4月)
・『人類進化の700万年-書き換えられる「ヒトの起源」』三井誠 講談社現代新書(2005年9月)
・『われら以外の人類-猿人からネアンデルタール人まで』内村直之 朝日選書(2005年9月)
・『絶滅の人類史―なぜ「私たち」が生き延びたか』更科功 NHK出版新書(2018年2月)
・『人類の起源ー古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」』篠田謙一 中公新書(2022年2月) など