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ウィクリフ

14世紀イギリスの先駆的な宗教改革者。聖書の英語訳を行ったといわれる。教皇・聖職者の権威を否定し、聖書にもとずく信仰を説き、農民反乱に影響を与えた。チェコのフスもその影響を受け教会改革を主張した。その死後、1414年のコンスタンツ主教会議で異端とされ、遺体が火刑となった。16世紀の宗教改革の先駆となる動きであった。

ウィクリフ

John Wyclif ?-1384

 14世紀、百年戦争の時期のイギリスに現れた先駆的宗教改革者。オックスフォード大学の神学教授であったが、ローマ教皇や教会、修道院の聖職者も世俗的な豪奢な生活を送っていることに疑問を感じ、教会とはローマ教皇を頂点とした組織のことではなく、救済を約束された人々の集まりそのものであると主張して、教会財産を否定し、聖書に立ち返ることを説くようになった。

聖書に信仰の基盤をおく

 ウィクリフは、正しい信仰は聖職者の言葉で導かれるのではなく、聖書によらなければならないと教えた。その聖書主義は16世紀の宗教改革の先取りであった。ウィクリフが聖書をラテン語から英語に翻訳する必要を説いたので、彼が聖書を英語に翻訳した最初の人物ともいわれている(ただし、彼自身が翻訳に当たったかは不確かで、彼の信奉者によるものともいわれている)。また、カトリック教会の儀式である秘蹟(化体説と言って、聖餐の秘蹟においてパンとぶどう酒がキリストの肉と血に変化するという説)を本来のイエスの教えではないとして否定した。特に化体説は当時カトリック教会の中心的な教義・儀式であったので、教会はそれを否定するウィクリフに厳しく反発した。
 当時、ローマ教皇はいわゆる教皇のバビロン捕囚(アヴィニヨン捕囚)によってアヴィニヨンに移っており、その権威は動揺していたことの反動で教会領に対する収奪を強めていたので、ウィクリフの説教は諸侯や民衆の中にも支持するものが増えていった。

教皇・教会批判

 1376年、彼は時節を公表してイングランドにおける宗教改革の口火を切った。その聖書を信仰の拠り所にすること、パンと葡萄酒をイエスの肉と血とすることの否定などは判りやすく、イングランドの農民にその支持者を増やしていった。また教会が世俗的な財産をもっていることを批判したので、領主層の一部からも支持された。しかし教皇はウィクリフの教説を異端と断定し、対立は深まっていった。
 翌年、アヴィニヨン捕囚は終わって教皇はローマに戻ることになったが、直ちに教皇の継承をめぐって争いが起こり、1378年教会大分裂が現実のものとなり、1415年までのカトリック世界の危機の時代を迎える。

ロラード派の活動

 イギリスではウィクリフの影響を受けた信者はロラード派(ロラードとはおしゃべりの意味)といわれ、彼等は貧しい身なりで熱心に農村で説教を行った。1381年ワット=タイラーの乱が起こった時の説教僧ジョン=ボールもそのような一人だった。ワット=タイラーの乱が起きるとウィクリフは直接関係はなかったがオックスフォード大学を辞任した。

フスとともに異端とされる

 教皇はウィクリフを異端として弾劾していたが、生前に裁判にかけられることはなく、1384年に死去した。彼の思想は大陸にも伝えられ、当時神聖ローマ帝国の領邦の一つであったベーメン(ボヘミア、現在のチェコ)のプラハ大学ではその支持派と反対派が対立し、支持派のフスがさらに教会批判を展開した。
コンスタンツ宗教会議 カトリック教会はベーメンなどでの教会改革派に抑えるためにも大分裂を克服して教皇権の衰退を押しとどめ、その権威を回復しなければならないという事態に追いこまれ、1414年コンスタンツ公会議を開催した。コンスタンツ公会議では多面的な問題に対する解決に当たったが、ウィクリフとフスに対しては改めて異端であると断罪し、フスを火刑に処し、ウィクリフの遺体を墓を暴いて火刑にした。同時に大分裂を解消し、ローマ教皇の不謬性を確認して、ローマ教会を建て直そうとした。これによってローマ教皇の権威は一応回復され、教会改革の運動は抑えられた。イギリスにおいては百年戦争の末期に王位を継承したランカスター朝はカトリック教会との関係修復に動き、ロラード派を激しく弾圧し、ウィクリフの教えはほぼ消滅した。

宗教改革の先駆となる

 しかし、ウィクリフの教えを継承したチェコのフス派はその後、神聖ローマ帝国とカトリック教会との更に激しい戦いであるフス戦争を展開していく。フス戦争も鎮圧されることになるが、ウィクリフとフスの始めた改革運動はカトリック教会の動揺をもたらし、約100年後の宗教改革へと結びついていく。16世紀のルターやカルヴァンの宗教改革はウィクリフ・フスの思想を直接的に継承したものではないが、ウィクリフとフスの運動はその先駆けとなったと見ることはできる。
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