印刷 | 通常画面に戻る |

国際人権規約

世界人権宣言の理念を現実化するため1966年、国連総会で採択された人権に関する規約。社会権規約(A規約)と自由権規格(B規約)、及び選択議定書からなり、条約と同様の拘束力を持つ。日本は1979年に批准した(一部未批准)。

 国際連合国際連合憲章の中に人権章典がなかったことからその制定を課題とし、1948年12月10日の総会において、世界人権宣言を採択した。それには法的拘束力はなかったので、国連はさらに協議を重ね、1966年総会において、具体的な人権保障条約としての機能を持たせた国際人権規約 International Covenants on Human Rights を採択し、1976年に発効した。
 国際人権規約は二つの部分から成っている。ひとつは「社会権規約(A規約)」と略される「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」であり、もうひとつは「自由権規約(B規約)」と略される「市民的及び政治的権利に関する国際規約」である。また自由権規約には第一と第二の「選択議定書」が附属する。そのうち第二選択議定書は死刑廃止を定めており1989年に採択、1991年に施行された。社会権規約の「選択議定書」は2008年に採択されたが、まだ発効していない。
 国際人権規約の締約国は、A規約が164ヵ国、B規約が169ヵ国となっている(2017年3月現在、外務省ホームページによる)。日本は1979年に両規約とも批准したが、一部保留している部分もある。

国際人権規約の内容

 両規約・議定書とも多岐にわたるが、そのうち主要な条文を要約してあげると次のようになる。ただしこの要約はあくまで便宜的なものなので、正式な条文は外務省の人権外交のサイトなどでご覧下さい。
社会権規約・自由権規約に共通する第一部第1条の規定
  1. すべての人民は、自決の権利を有する。この権利に基づき、すべての人民は、その政治的地位を自由に決定し並びにその経済的、社会的及び文化的発展を自由に追求する。
  2. すべて人民は、互恵の原則に基づく国際的経済協力から生ずる義務及び国際法上の義務に違反しない限り、自己のためにその天然の富及び資源を自由に処分することができる。人民は、いかなる場合にも、その生存のための手段を奪われることはない。
社会権規約
第2条 規約締結国の権利の完全な実現を漸進的に達成することの義務をもつ。
第3条 すべての経済的、社会的及び文化的権利の享有について男女に同等の権利を確保。
第6条 労働の権利の保障。
第7条 労働条件の保護。
第8条 労働組合活動の保障。
第9条 社会保険その他の社会保障についてのすべての者の権利を認める。
第10条 婚姻の平等、児童の保護など。
第11条 生活保護と、締約国のその改善の努力義務。
第12条 到達可能な最高水準の身体及び精神の健康を享受する権利。
第13条 教育の権利 (c)高等教育の無償教育の漸進的な導入。
第15条 文化的な生活に参加する権利など。
第16条以降 国連事務総長や経済社会理事会への報告義務など。
自由権規約
第2条 人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位等によるいかなる差別をなくすことの約束。
第3条 すべての市民的及び政治的権利の享有について男女に同等の権利。
第4条 緊急事態における権利の制限は、国際法に抵触しないことと人種、皮膚の色、性、言語、宗教又は社会的出身のみを理由とする差別を含んではならないこと。
第5条 権利と自由を破壊する活動に従事してはいけない。
第6条 すべての人間の生命に関する固有の権利の保障。死刑に関する抑制的な規定。
第7条 拷問、非人道的刑罰、人体実験の禁止。
第8条 奴隷、奴隷制度、奴隷取引、強制労働の禁止。
第9条 身体の自由及び安全の権利の保障。恣意的な逮捕、抑留の禁止。正統な裁判を受ける権利の保障。
第10条 (犯罪者として)自由を奪われた者の人間としての固有の尊厳の尊重。
第11条 契約上の義務を履行することができないことのみを理由として拘禁されない。
第12条 移動、居住、国籍離脱の自由についての権利。
第13条 外国人の国外追放は法律に基づいてしか行えない。
第14条 平等な裁判を受ける権利の保障。推定無罪の原則。処罰の決定の平等その他の原則。
第15条 何人も、実行の時に国内法又は国際法により犯罪を構成しなかった作為又は不作為を理由として有罪とされることはない。
第16条 すべての者は、すべての場所において、法律の前に人として認められる権利を有する。
第17条 プライバシー、名誉および信用は不法に攻撃されてはいけない。
第18条 すべての者は、思想、良心及び宗教の自由についての権利を有する。
第19条 干渉されず意見を持つ自由、表現の自由とその制約。
第20条 1 戦争のためのいかなる宣伝も、法律で禁止する。
    2 差別、敵意又は暴力の扇動となる国民的、人種的又は宗教的憎悪の唱道は、法律で禁止する。
第21条 平和的な集会の権利は、認められる。
第22条 結社の自由、労働組合の結成、活動の自由、団結権の保障。
第23条 家族の保護、婚姻の平等と自由などの保障。
第24条 児童の権利の保障。
第25条 市民の政治参加、平等な秘密選挙への参加、公務就任の保障。
第26条 法律の前に平等であり、いかなる差別もなしに法律による平等の保護を受ける権利を有する。
第27条 少数民族としての諸権利の保障。
第28条以下は人権委員会の設置、締約国の国連事務総長、経済社会理事会への報告義務などの規定。
自由権規約の第1議定書 人権条約に定める権利を侵害された個人が、実施機関(国際連合自由権規約委員会)に直接通報し、救済を求めることができる。(個人通報制度) → 日弁連 自由権規約第一議定書
自由権規約の第2議定書 死刑制度についての第6条の規定を発展させ、「本議定書の締約国の領域において、何人も死刑に処せられない。各締約国はその領域内における死刑廃止のため全ての必要な措置をとる」と定めた。(死刑廃止議定書といわれる)

日本の批准状況

 日本政府は1979年に「社会権規約」・「自由権規約」ともに批准したが、一部で留保し、批准していない部分もある。留保、未批准の事項は次の点である。
  • 社会権規約第7条の中の労働者の休日に対する報酬の支払いは留保している。
  • 社会権規約第8条のd項(ストライキ権)は一部留保している。(公務員のストライキ権を否定)
  • 社会権規約第8条、自由権規約第22条で「軍隊もしくは警察の構成員または公務員」の団結権はに合法的な制限をかけることができると定めるが、それには「消防吏員」も含まれると解釈している。(解釈宣言)
  • 自由権規約の第1議定書(個人通報制度)と第2議定書(死刑廃止)についてはいずれも批准していない。
※なお、社会権規約第13条の「高等教育無償化の漸進的実現」については日本政府は長く留保を続けていたが、民主党政権の2012年9月、留保を撤回した。日本も高校・大学の無償化を漸進的に実現することを国際公約しているわけである。

参考 今読む、国際人権規約

 日本では学校やマスコミでも、よほどのことがない限り、国際人権規約(の大部分)を日本が批准していることに言及することはない。これは国家間の条約と同等な拘束力を締約国に求めている。また日本国憲法第98条2項では「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」とされている。その観点から、今、国際人権規約を読んでみると、日本も守らなければならない(つまり守られていない)いくつかの重要な規約が在ることに気付く。
 たとえば社会権規約では第9条に「社会保険その他の社会保障についてのすべての者の権利を認める」とあること、第13条では教育の無償化は高等教育まで漸進的に導入されるべきであるとされていることが注目される。また、自由権規約では第15条に「1.何人も、実行の時に国内法又は国際法により犯罪を構成しなかった作為又は不作為を理由として有罪とされることはない」とあって、これは実行前の共謀の事実だけで処罰できるといういわゆる共謀罪(2017年6月15日未明、強行採決で成立した)はこの規約に反するのではないだろうか、という疑問が湧く。第20条2項(上掲)はまさにヘイトスピーチの禁止を定めている。この規約だけでも十分規制できそうだが。同25条、26条は「すべての市民」「すべての者」の平等な政治参加、差別の禁止、平等な保護を謳っている。これはいまアメリカやヨーロッパで嵐の如く巻き起こっている、難民や移民の排斥、イスラーム教徒排除に対するはっきりとした禁止条項なはずだ。なお、第4条の緊急事態条項は、日本の憲法改正でも議論になり始めているが、もし必要ならこの規定で充分であると思われる。
 わたし自身の反省もふくめて、1966年という段階で、国連総会で国際人権規約が採決され、日本がそれを批准していること、そして日本は死刑廃止の部分は受け容れず、世界の流れに逆行していること知っておくべきだと思う。また国際人権規約は高校教科書ではほとんど取り上げられておらず、山川用語集にもない事項(実教出版、三省堂の用語集にはある)であるが、世界史教育の中でも触れるべきではないだろうか。

用語リストへ 16章1節

 ◀Prev Next▶