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ヴァルナ制

インドのアーリヤ社会で生まれた種姓制度。

 ヴァルナは「種姓」と訳するが本来は「色」を意味し、肌の色の白いアーリヤ人が有色の非アーリヤ人を区別するために用いられた言葉であったが、混血が進むうちに、本来の意味を離れ、身分(種姓)やその制度をさす言葉となった。そこで、バラモンクシャトリヤヴァイシャシュードラの四種姓を基本とする身分秩序を「ヴァルナ制」と呼ぶ。アーリヤ人がガンジス川流域に移住した、後期ヴェーダ時代の中頃までに形成されたと考えられている。ヴァルナはそれぞれ世襲され、さらにジャーティといわれる世襲職業ごとの身分に細分される。このような身分制度をポルトガル人が血統を意味するカスタと呼んだところから、カースト制度と言われるようになった。その完成した姿は『マヌ法典』にみることができる。

再生族と一生族

 ヴァルナ制度が支配者層としてのバラモン、クシャトリヤならびに、生産活動に従事する庶民層ヴァイシャの、“肌色の白い”上位三ヴァルナと、彼らへの隷属的奉仕を義務づけられた“肌の黒い”先住民など、“シュードラ(隷民)”と呼ばれた四ヴァルナから構成されていた。上位三ヴァルナとシュードラとの決定的相違は何か。それは上位三ヴァルナは少年期に『ヴェーダ』を学習して「入門式」を受け、宗教的に生まれかわる再生族(二度生まれる意味でドヴィジャという)とされたのに対し、シュードラは『ヴェーダ』の学習が許されず、従って「入門式」を受ける資格がない、一生族(一度しか生まれない意味でエーカジャという)とされるという宗教上の慣習があったことである。このような再生族と一生族から成るヴァルナ制度の成立は後期ヴェーダ時代の半ば、前八世紀ごろとされている。

ヴァルナとジャーティ

 前6世紀ごろからガンジス川中流域に都市が誕生し、貨幣経済が発達しはじめると、社会や経済のしくみも複雑になり、ヴァルナの枠組みのなかで専門職も多様化し、いろいろな専業集団が発生した。それらの職業は親から子へ厳格な世襲制度によって継承され、この職業の世襲、婚姻、食卓を共にしうる集団は「ジャーティ(生まれ、出生を意味する)」と呼ばれるようになった。したがって不可触民のジャーティを除く、すべてのヒンドゥーはいずれのヴァルナとジャーティに所属することになる。ただし、ヴァルナとジャーティの関係は一定ではなく、時代や地域によってジャーティが異なるヴァルナに属することがある。<森本達雄『ヒンドゥー教 -インドの聖と俗』2003 中公新書 p.140-142>
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森本達雄『ヒンドゥー教-インドの聖と俗』
2003 中公新書