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メアリ=ステュアート

16世紀のスコットランド女王。カトリック信者でフランス王フランソワ2世の王妃となったが死別。スコットランドに戻ったがカルヴァン派の政権によって王位を追われイングランドに亡命。エリザベス1世の王位を脅かす存在として捕らえられ19年間の幽閉の後、1587年に処刑された。

Mary Stuart
 メアリ=ステュアート(1542~87)はスコットランド国王ジェームズ5世の娘でスコットランド国王(在位1542~67)となり、またフランス王国の王妃ともなった。またイングランドの王位継承権も持ち(祖母がチューダー朝ヘンリ7世の娘)、16世紀中葉のヨーロッパで動向が注目されたが、不行跡が多く、またカトリック信者であったためスコットランドの長老派教会と対立、1568年にイングランドに亡命した。その後もエリザベス女王暗殺などの陰謀に関わったとされるスキャンダラスで、波乱に富んだ生涯を送った。
 イングランドではカトリック信者であることとエリザベス1世の王位継承権を脅かすものとして幽閉された。エリザベス1世は処刑する決心が出来なかったが、最後はカトリック復興を恐れる有力家臣によって、女王の命令とされて処刑された。1587年2月8日、イギリスがスペインの無敵艦隊と戦った前年だった。しかし皮肉なことに、エリザベス1世は結婚しなかったのでチューダー朝は断絶し、メアリの子供がイングランド王位を継承してステュアート朝ジェームズ1世となる。

Episode 悲劇か、スキャンダルか

 メアリ=ステュアートは1542年に父のスコットランド王ジェームズ5世が急死し、生まれるとすぐに女王となった。当時スコットランドはフランスと同盟してイングランド王テューダー朝ヘンリ8世と戦っていた。スコットランド併合を画策するイングランドはヘンリ8世の死後、若い国王エドワード6世の妻としてメアリを迎えようとしたが、断られるとスコットランドに再び侵攻した。そのためメアリはフランスのアンリ2世の皇太子フランソワと結婚した。メアリの母もフランス宮廷の貴族だったので、スコットランドの女王でありながらフランスで暮らし、熱心なカトリック信者として育った。
 生まれながらにして異国の地で女王となった彼女になおも不幸がつきまとう。夫はフランス国王フランソワ2世となったが間もなく死んでしまい、彼女は1561年、18歳でスコットランドに戻る。しかしスコットランドはカルヴァン派の長老派(プレスビテリアン)による宗教改革が行われており、彼女に実権は無かった。その後、美しかった彼女の周辺にはスキャンダルが渦巻く。宮廷の有力者だったダーンリー卿と再婚したが、まもなく夫は暗殺される。メアリは三度目の結婚をするが、何とその相手はダーンリー卿暗殺の疑いをかけらていたボスウェルという男。結局、不行跡から国民から見放され、1567年に王位を息子(誰の子か判らないとまで言われた)ジェームズに譲り、囚われの身となる。しかし、1568年「馬に一鞭くれて」イングランドに逃亡した。

Episode スペインの無敵艦隊派遣の口実

 エリザベス1世はメアリをかばい、スコットランドに引き渡さなかったが、イングランド王継承権を持つ(父の母がヘンリ7世の娘)この女性は危険な存在であった。カトリックの復権をもくろむ勢力やエリザベス女王をねたむ勢力は、メアリを担ぎ出そうとしてたびたび陰謀事件が仕組まれた。エリザベスはメアリを幽閉したが、処刑はせずに19年の月日がたち、ついにスペインとの戦争が間近い1587年、女王殺害計画の罪で処刑した。スペインのフェリペ2世は同じカトリックの立場からメアリの処刑に抗議し、無敵艦隊を派遣する口実の一つにした。<アンドレ=モロワ『英国史』上 新潮文庫 などによる>

Episode シラーの描いたメアリー

 ドイツの18世紀後半、疾風怒濤時代の代表的な作家シラーの史劇に『メアリー=スチュアート』がある。2013年5月、池袋サンシャイン劇場で、栗原小巻と樫山文枝共演、加来英治脚色・演出の公演を観た。前半の舞台は囚われているメアリーと、宮殿のエリザベスとが交互に転換する。後半、偶然を装って二人が初めて会見する場面となり、急激に盛り上がる。二人をあわせたレスター伯爵は、メアリーに助命を嘆願させることであったが、メアリーははじめこそしおらしかったが、次第に本性を現し、結局「本当のこの国の女王は私だ!」と絶叫ししてしまう。レスター伯爵のもくろみは失敗し、エリザベスはメアリー処刑を決意し、命令書に署名する。しかし、なおためらいを感じたエリザベスは書記にその命令書の保管を命じ、すぐには執行しなかった。やがて信頼する顧問官シュローズベリから、メアリーに謀反の証拠はなかったと聞かされ、命令書を破棄しよう決意する。そこへバーリーが平然と現れ、メアリーを処刑したと告げる。書記を脅したバーリーが命令書を手に入れ、ただちに執行したのだった。こうしてメアリーは波瀾の生涯を閉じ、エリザベスは偉大な女王と言われるようになっていく。シラーは最後の方でメアリーに「私がやがてこの国の王位を手にするであろう」と予言させている。それはメアリーの息子スコットランド王ジェームズがエリザベス死後のイングランド王を兼ねるというその後の史実を踏まえた独白なのである。主演の二人とかかわる男優たちがシラーの長台詞をよどみなく演じるのに感心した次第である。(2013年6月6日記)

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シラー/相良守峯訳
『マリア・ストゥアルト―悲劇』
1957 岩波文庫
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メアリーとエリザベス』
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