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通貨統一/幣制改革/法幣(中国)

1935年、中国の中華民国政府(蔣介石政権)による通貨改革。銀を本位とした複雑な通貨制度を廃止し、政府系銀行の発行する紙幣(法幣)のみを通貨とする管理通貨制度に改めた。イギリス・アメリカの協力で為替相場も安定し、中国経済は安定した。

 1935年11月中華民国国民政府蔣介石が行った通貨改革。幣制改革ともいう。銀を回収して代わりに政府系銀行が法定通貨として法幣を発行する管理通貨制度に切り替えた。それによって中華民国の経済は安定し急速な成長を実現した。満州を除いて支配を及ぼしていた南京国民政府の統治も相対的に安定した。しかし反面、アメリカなど帝国主義諸国への従属と、財閥による独占を強める結果となった。

国民政府による中国統一

 中国の通貨は清代以来、を基本として各地の様々な銀行が紙幣を発行していたが、統一がとれておらず不安定であった。1928年、北伐の完成によって北京の軍閥を抑え国民政府による中国統一を達成した蔣介石は、アメリカなど諸外国に関税自主権の回復などを要求、アメリカもそれに応じ、諸外国もに続いた(日本は済南事件のため交渉が遅れた)ことによって国際的な通商網に加わった。しかし、依然として秤量貨幣である銀の本位通貨賭して流通、各銀行が紙幣を勝手に発行するなど混乱が続いていたため、通貨制度の統一と近代化が求められるようになった。
 1929年に世界恐慌が勃発すると、1931年ごろから中国にもその影響がおよんできた。1931年にイギリスが金本位制を離脱したことによって国際的な銀価格の上昇が始まり、銀を本位とする複雑な通貨体制に深刻な影響がでた。農産物を初めとする物価が下落し、工場の倒産や商店の閉鎖が相次いだ。日本もその頃農村不況が深刻になっていたが、中国も同様な状況だった。

銀本位を廃止し通貨管理制度へ

 まず1933年3月、それまでの銀の貨幣単位「両」を「元」に一本化(廃両改元)し、ついで1935年11月に幣制緊急令を制定し、銀の流通を禁止して国がすべて買い上げ(国有化)、それを政府系銀行の発行する紙幣である法幣と交換、法幣のみを法定統一通貨とする管理通貨制度に切り替えた。法幣を発行する政府系銀行とは中央銀行・中国銀行・交通銀行・中国農民銀行の四銀行だけに限定された。
 法幣は初めはイギリス=ポンドにリンク(1元=1シリング2ペンス半)させた。それはこの幣制改革の顧問を務めたのがイギリス人リース=ロスだったからであるが、翌1936年にアメリカとの協定が成立してアメリカ=ドルとリンクすることとなり、ドル経済圏に組み込まれることとなった。これによって外国為替レートがが安定し、銀流出にともなう金融混乱も解消された。
 この蔣介石の国民政府による幣制改革の成功によって、中国経済は混乱から立ち直り、急速に景気を回復させた。それによって中華民国の国民政府による経済支配が確立し、その統治力は一段と強くなった。しかし実は政府系銀行は蔣介石の一族(浙江財閥の四大家族の一つ)に握られており、蔣介石の権力を一段と強めるとともに帝国主義列強に対する従属を明らかにする結果となった。
 また、この法幣は国民政府の支配地域では行き渡ったが、国内にあってそれが通用しない場所が合った。それがすでに「満州国」として独立した東北地方であった。満州国では国民政府の法幣に対抗して「国幣」と称する紙幣を発行し、日本円と等価とすることで日満経済ブロックを形成した。<石川禎浩『革命とナショナリズム』シリーズ中国近現代史③ 2010 岩波新書 p.70-72>

日本の華北分離工作

 中国の国民政府(南京の蒋介石政権)による通貨統一・幣制改革は、満州国・朝鮮・台湾を円ブロックとして日本通貨の通用圏としていた日本にとっては大きな脅威となった。円ブロックを華北へと拡大しようとしていた日本は、国民政府の法幣の華北への浸透を阻止するため、華北を国民政府統治から分離させる華北分離工作を強めることとなった。
 関東軍は幣制改革は中国を「英国の経済的支配下に置き、一般民衆の利益を蹂躙し、満州国を脅威」にさらすこととなるから、その政策を放棄させなければならない、として「北支諸省を経済的に南京政府より分離せしむる」ために「一部兵力を満支国境に集結し、北支実力者を支援」すると称し、同1935年11月12日、兵力を山海関付近に結集させた。奉天特務機関の土肥原賢二は武力を背景に工作を進め、11月25日、北京東部の通州に「冀東防共自治政府」(当初は委員会。12月25日に政府と改称)を設立させた。<笠原十九司『通州事件』2022 高文研 p.76>
 冀東防共自治政府を日本軍の傀儡政権とみた国民政府は強く反発し、また中国民衆も反発を強め、北平と天津の学生を中心に12月9日、大規模な反日運動(十二・九学生運動)が起こった。