印刷 | 通常画面に戻る |

核兵器禁止条約/TPNW

2017年、国際連合で採択され、2021年1月、各国で批准されて成立した、全面的な核兵器の禁止を定めた条約。核拡散防止条約(NPT)の不備を補うべく、核兵器の開発・所有だけでなく、包括的な核廃絶をめざしている。現状では核保有国と「核の傘」のもとにある諸国(NATO加盟国、日本)が未加盟である。

核兵器禁止条約

 第二次世界大戦での広島・長崎への原子爆弾の投下、さらに戦後の冷戦の中での核兵器開発競争が続き、米ソをはじめとする核実験が相次ぎ核戦争の危機が高まるとともに、世界各地で核兵器廃絶運動が高まりをみせるようになった。運動は米ソの核軍縮、核実験抑制を実現させたが、冷戦終結後にもかかわらず、核廃絶は実現していない。
 現在でも核保有国には(そして核保有国でもないのに日本の一部には)、核兵器を最も有効な「抑止力」だと考えている勢力がある。しかし、核開発は原子力発電と同様、開発・維持にコストがかかるだけでなく、事故の時には取り返しの付かない損失を「敵ではなく味方に」与える危険と隣り合わせている。そのような認識が深まるにつれて、いわゆる「核拡散防止条約( NPT)体制」といわれる核保有国を固定化させる方式でなく、核兵器の開発・実験・製造・備蓄・移譲・使用・威嚇としての使用を包括的に「人道に反する」という観点から禁止するという視点が生まれた。その視点から構想されたのが、「核兵器禁止条約」 Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons (TPNW)であった。
 核兵器禁止条約は、コスタリカとマレーシアの提案で1996年から原案作成が開始され、2017年7月に国連の委員会で採択され、2020年10月には批准国が規定の50ヵ国に達し、2021年1月の発効が予定されるまでになった。2017年には条約採択に努力した「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)にノーベル平和賞が与えられた。 → 国際連合広報センター
不参加表明の国々 しかし核兵器禁止条約(TPNW)には、核保有国であるアメリカ、イギリス、ロシア、フランス、中国は、核拡散防止条約(NPT)体制を維持することを優先して条約に不参加、核保有を表明しているインド、パキスタン、北朝鮮も参加していない。またNATO諸国や日本、韓国などアメリカの核戦略の傘下に入っている国も加わっていない。特に唯一の戦争被爆国である日本の不参加は、内外に失望感を与えている。核を巡る国際問題の行方は、NPT体制か、TPNWの普遍化か、という岐路にきている。

核兵器禁止条約の批准成立

 2021年1月22日、批准手続きに入っていた核兵器禁止条約は、前年の10月に規定の50ヵ国に達したため、その90日後に発効するという規定に従い発効した。この条約は核兵器の非人道性に焦点を合わせて、その開発・実験・製造・備蓄・移譲・使用・威嚇としての使用を包括的に禁止するもので、部分的、限定的な開発や使用も含めて核兵器の廃絶を目指す。
 条約の意義はこの他に、大国や核保有国の駆け引きやその都合で成立したのではなく、広島・長崎の被爆者の運動が世界の世論を動かしたというところにある。
 国連では122ヵ国が賛成しており、今後さらに批准国は増え、「核兵器禁止」という国際合意は確固たるものになる見通しである。前述の通り、現在の核保有国が参加していないと言うことからこの条約を非現実的なものと見なす見方があり、日本政府もそれに従って参加していない。しかし、この条約が広く世界に定着することによって核兵器を平和への抑止力という見方の方が、非現実的になることが期待される。
 → 広島市 ホームページ 核兵器禁止条約が発効しました!

NewS 第1回締約国会議

 2022年6月21日~23日、オーストリアのウィーンで核兵器禁止条約第1回締約国会議が開催された。参加国は条約締結国(批准国)の65ヵ国・地域に加え、未締結国から34ヵ国がオブザーバーとして参加した。その中ではNATO加盟国のドイツ、ノルウェー、オランダ、ベルギーが含まれているが、日本政府はアメリカの核の傘によって守られているという立場から、オブザーバー参加も見送った。また、会議には核廃絶を目指して活動している多くのNGO団体も参加し、発言の機会が与えられた。
 会議は、2月のロシアのウクライナ侵攻という事態の中でロシアが核兵器の使用、さらには原子力発電所の占領など緊迫の度を増していることに対し、核兵器禁止条約をどのように実行或るものにするか、をめぐって真剣な討議が行われた。そのうえで最終日には核廃絶に向けての新たな取り組みの指針として「ウィーン宣言」を合意文書として発表した。
ウィーン宣言 「ウィーン宣言」ではロシアを名指しすることは避けつつ、核兵器の使用を威嚇に用いることに強く懸念を示した。また核抑止論に対しては、被爆者などの声を反映し、核戦争の非人道性をあらためて認識することによって克服することが提唱された。最も注目された、NPTとの関係では、NPTが核保有国も含めた核軍縮を定めた唯一の条約であることの意義を認めるとともに、TPNWがそれと相俟って取り決められたことにも意味があるとし、核保有9ヵ国※と「核の傘」の下で非加盟に留まっている国々への参加を強く勧めている。
核保有国9ヵ国とは、アメリカ・ロシア・イギリス・フランス・中国の国連安保理常任理事国5ヵ国に加え、インド、パキスタン、北朝鮮、イスラエルであり、この9ヵ国で、約1万3000発の核爆弾を所有(大部分はアメリカとロシア)しているとされている。<2022/9/1記>
 → 8月26日、NPT再検討会議決裂。
印 刷
印刷画面へ
書籍案内

川崎哲
『核兵器 禁止から廃絶へ』
岩波ブックレット1055
2021 岩波書店