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発展途上国

アジア・アフリカやラテンアメリカに多い、かつて西欧諸国に植民地支配されていた諸地域で、工業化の遅れた諸国をいう。独立を達成したものの、経済的に先進諸国に従属し、政治的不安、人口問題など多くの問題を抱える国、地域も多い。

 かつては、先進国に対する「後進国」という言い方が一般的であったが、現在では差別的な表現として使われなくなった。しかし、発展途上国と先進工業国との間には、資源や投資、あるいは文化的な対立など、いわゆる南北問題とされる利害の対立が存在している。また、発展途上国には次のような共通する問題点を抱えている。

発展途上国の抱える問題

(1)インフラ整備の遅れ 長く植民地支配を受けていたため、インフラストラクチャー(道路、鉄道、通信、港湾など産業発展の前提となる社会資本)の整備が遅れた。植民地支配には植民地の産業基盤を整備する側面があったが、あくまで宗主国側の利益のためであり、独立後の経済自立には不十分であった。インフラの整備の遅れだけではなく、教育の遅れからくる技術力の低さは途上国の自立を妨げてきた。
(2)モノカルチャー モノカルチャーとは単一作物に依存する農業のことで、植民地支配に際して本国にとって有利な天然資源や農作物を限定して生産させた。たとえばポルトガルのブラジルにおけるコーヒー、イギリスのインドにおける綿花やアヘン、またマレー半島におけるスズとゴム、オランダのインドネシアにおけるコーヒー、西インド諸島における砂糖などである。これは植民地の多様な産業の発展を、独立後も阻害する要因となった。
(3)人口圧力 途上国は高い経済発展を示しても、人口増加率も高いため、一人あたりの生産性はなかなか高まらない。その現象を人口圧力という。現在においても世界の人口は低所得国30.6億、中所得国10.9億、高所得国8.2億と中・低所得国に偏在している。
 国際社会では、1962年の国際連合第17回総会において国連貿易開発会議(UNCTAD)が設立され、64年の第1回UNCTADでは、いわゆる南の立場をとる発展途上国77カ国がグループ(G77)を結成した。また、西側先進工業国の経済協力機構として発足した経済協力開発機構(OECD)も、次第に発展途上国への経済支援を強めていった。

グローバリゼーションの脅威

 現代においては露骨な新植民地主義はみられないが、1970年代からび世界経済のボーダーレス化が進む中で、多国籍企業の経済活動がより安価な原料と労働力を求めて進出し、そしてなりふり構わない市場原理を途上国の国内企業にもしかけてきて、新たな地域格差と自然破壊をもたらしているという、いわゆるグローバリゼーションの脅威にさらされている。

南南問題

 また、発展途上国にも、工業化に成功した新興工業経済地域(NIEs)といわれる韓国、台湾、香港、シンガポールなどが出現、さらにOPECOAPEC諸国などの産油国は資源ナショナリズムの潮流に乗って豊かになっていったが、その一方で、工業化も進まず、資源も少ない諸国、地域との格差が鮮明となっていって、発展途上国間の対立である南南問題といわれている。

「援助よりも公正な貿易を」

 そのような中、1974年に国連資源特別総会において、G77に結束した途上国グループは、「援助より公正な貿易の拡大を」主張し、新国際経済秩序(NIEO)の決議を成立させたことが注目される。

環境問題と南北問題

 1990年代からは、地球規模での温暖化などの環境問題が国際社会でも真剣に話し合われるようになった。1997年の京都議定書の締結など前進が見られたが、そこで大きな問題になったのが、化石燃料の抑制問題であった。いわゆる先進国諸国はいまやすべての国で化石燃料の削減が必要であると主張したのに対し、発展途上国は今まで先進国が産業革命以来排出を続けてきた責任を問い、途上国に同様な削減を求めるのは筋違いだ、と反論し、途上国側の削減目標は低く抑えられた。それにたいして先進国が過重な責任を負わされることに不満を隠さないアメリカのトランプ政権は、京都議定書の後継取り決めであるパリ協定から離脱した。このように環境問題というグローバルな、人類的課題を克服する上で、南北問題がネックになっていると言うことができる。
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