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臨時約法

辛亥革命によって成立した中華民国で1912年に制定された暫定憲法。「中華民国臨時約法」。国民主権、左賢分立、議会制度を導入した近代的憲法であったが、袁世凱政権によって1914年に廃止されたが、孫文らはその存続を運動。最終的には蔣介石政権下で1931年に失効した。

 辛亥革命で成立した中華民国で最初に制定された国家基本法で、将来的な本格的な憲法までの暫定的憲法として、1912年3月11日に公布された。暫定憲法であるが、中国で最初の国民主権、三権分立、議会制などを定めた近代憲法として重要である。臨時約法起草は南京の宋教仁によって進められていたが、北京の袁世凱は清朝皇帝を退位させ、孫文に妥協を迫っていた。孫文は妥協に踏みきり臨時大総統の地位を譲ることにしたため、臨時約法の公布された前日には袁世凱が中華民国臨時大総統に就任していた。

臨時約法の内容

 革命運動の指導者宋教仁が中心となって起案したもので、その精神は西欧的な議会制民主主義を導入しようとした近代的な憲法であった。
 その冒頭で「中華民国の主権は国民全体に属する」として主権在民を規定し、第二条ですべての国民が民族、階級、宗教にかかわりなく平等であると定め、さらに言論、出版、および集会の自由を保障するとしており、また、臨時大総統は参議院から選出する議院内閣制を採り入れ、議会である参議院は予算・法律制定・臨時大総統の選出・弾劾権などの権限が認められていた。司法権を持つ法院もおかれ三権分立の形態をとった。

資料 中華民国臨時約法

 1912年3月11日に公布された中華民国臨時約法の主な条文は次のようになっていた。(全56条)
第1条
中華民国は、中華人民がこれを組織する。
第2条
中華民国の主権は、国民全体に属する。
第3条
中華民国の領土は、22の省、内外蒙古、西蔵、青海である。
第4条
中華民国は、参議院、臨時大総統、国務員、法院が統治権を駆使する。
第5条
中華人民は一律平等であり、種族、階級、宗教による区別はない。
第6条
人民は次の各項の自由権を共有する。
・法律によらなければ逮捕、処罰されない。・財産、営業の自由。・言論、集会、結社の自由。・通信の秘密。・移動、居住の自由。・信教の自由。
第12条
人民は選挙権、被選挙権を有する。
第16条
中華民国の立法権は参議院が行う。
第29条
臨時大総統・副総統は参議院が選挙する。(下略)
(以下略)<歴史学研究会『世界史史料9』2008 岩波書店 p.210> → 臨時大総統

袁世凱・孫文いずれも臨時約法を支持せず

 議会の権限を強くし、臨時大総統の権限を抑えようとしたのは、袁世凱の独裁の危険性を警戒したことと、孫文の革命論にも対抗するためであった。孫文はこの臨時約法に対し、自分の主張が通ったのは国民主権の原則だけで、「その他はすべて私の意志でない」と言ったという。孫文は中国の革命は議会制民主主義では不可能で、強い指導力を持った独裁的な権限が必要だと考えていた。

袁世凱、臨時約法を葬る

 孫文は袁世凱に臨時約法を遵守することを求め、袁世凱もこの臨時約法を認めることで臨時大総統となったが、袁世凱はその骨抜きを狙った。まず、孫文よりも急進的な革命派で臨時約法を起案した宋教仁を狙った。宋教仁は議会開設に向けて国民党を組織し、現実に1913年の選挙で国民党が第一党となると、3月、宋教仁を暗殺した。4月8日に開会された議会では買収と恐喝で議員を黙らせようとした。それに反発して第二革命が起きるとそれを武力で抑え、10月に正式に大総統に就任、11月に国民党の解散を命令、機能のマヒした議会は機能を失い、袁世凱は残った議員を買収し1914年5月1日「中華民国約法」(新約法)を制定、大総統の権限を強化、議会の代わりに大総統の諮問を受けるだけの参政院がおかれた。こうして、袁世凱は一挙に独裁権力を奪い、臨時約法と中国初の民主的議会は1年も持たずに幕を閉じることとなった。<菊池秀明『ラストエンペラーと近代中国』2005 講談社 中国の歴史10 p.167-170>

臨時約法のその後

 1914年、袁世凱が制定した「中華民国約法」は新約法と言われ、臨時約法は「旧約法」と言われるようになったが、孫文はその存続をさらに主張した。その後、1916年に袁世凱が死去したために復活したが、それを守ろうとしない軍閥の段祺瑞政権に対しては、広東軍政府を樹立した孫文は、臨時約法を守ることを掲げて「護法闘争」を行った。その後、1925年に孫文が死去し、国民党の中でその後継者として台頭した蔣介石は、1927年の上海クーデタで国民党の実権を握り、独裁色を強めていった。北爆を終えて中国を統一した蔣介石国民党政府のもとで、1931年6月1日に中華民国訓政時期約法が公布されて臨時約法は最終的に失効した。
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書籍案内

菊池秀明
中国の歴史10『ラストエンペラーと近代中国』
初刊2005  講談社
2021 講談社学術文庫